夢見るサイコ - 手塚真

夢見るサイコ - 手塚真

大学生のときの愛読書。何度読んだか分からないが、久しぶり、おそらく15年以上ぶりに読んでみた。15年の間に僕と映画の立ち居地は随分変わったのだろう。今回、この本を読んだ感想がかつての気持ちと随分違ったものであったことは、その立ち位置の違いからくるものなのかもしれない。

当時の僕は毎日とまでは言わないけれど、週に複数本の映画を見ることは珍しくなくて、そのほとんどに涙を流しそうなほど感動していたように思う。もちろん、好きになれない映画もたくさんあったし、上映中に眠る癖がついて困った時期もあったけれど、映画全体についていえば無条件で大好き、と言えるくらい好きだったんじゃないかと思う。

そういう心持ちの20歳そこそこの、まだ働いたことの無かった小僧にとっては、手塚真の書く映画の文章はとてもイノセントな愛に満ちていて、とても心地よかったように思っている。誰または何に対するものであれ、自分に迷惑が及ばない形で愛が向かっているのを見るのはとても気持ちよいものだ。

今回この本を久しぶりに読み直してみて感じたことは、「映画のあらすじを追っていくだけの部分が多いような気がする」だった。20歳そこそこの時代にも映画のネタバラシをされることに大きな抵抗を感じる気持ちは今と変わらないものだったと思うのに、この違いはなんなのだろう。

すばらしい映画の感想はその人の人柄をそのまま映し出す、みたいなネタが出てくるけれど、このすばらしい本への感想は、そのまま僕の人柄を映し出してしまっているのかもしれない。中原中也的に言うなら、僕は随分と「よごれっちまった」ということなのだろう。